合気道上級者でもやってしまう失敗

合気道の技をかけるとき、中級者や上級者でさえ、やってしまう失敗があります。それは「技をかけ急ぐ」という失敗です。要するに“相手を倒すことだけしか頭にない”状況になってしまうことです。

そういう状況になると、相手は逆らいやすくなり、結果として技が決まりません。達人である井口師範は「合気道の技は自然でないといけない。」と常に言っておられました。自然とは、相手が気ついた時点では、もう技が掛かっている状態にあることを意味します。あまり自然なので気づかないということです。

では、「かけ急ぐ」のを解消するのにどうするかという問題になります。
当会では、それを実現するには、技がかかるまで、数ステップの段階があると教えています。具体的には、次の4つのステップで技をかけるように指導します。( )内は井口師範が説明した内容で、当会での指導内容と対比しております。

  • ①合わせ(相手に気が流し易い状況をつくる)
    ②骨の技術により運動エネルギーを作る(気の流れを作る)
    ③運動エネルギーの伝達(気の伝達)
    ④導き(気の流れにそって相手を崩していく)
    ⑤抑え技や投げ技をかける

ただし、①の“合わせ”には3種類あり、当会では次の名称で区別しています。

  • A.皮膚の技術による合わせ
    B.皮膚感覚の技術による合わせ
    C.空間感覚の技術による合わせ

ちなみに、私の師匠である井口師範は、「抑え技も投げ技も、結局は枝葉。肝心なのは、『気の流れ』・『呼吸力』・『螺旋形』で相手を導くことや。枝葉にとらわれていてはいかん!」とよく言われていました。

しかし、いきなり、初心者には「気」と言っても、分かるようで分からないと思います。そこで私は、AとBの”合わせ”においては「気」を運動エネルギーとして説明し、③の空間感覚を使う“合わせ”では、心理学的なトリックによる心理操作と説明しています。

それから、昔、ある技を行っているときに師匠に、「どれぐらいの角度に手を持って行ったらいいのでしょうか?」と質問しました。それに対し、師匠は、「万能な角度とか考えたらあかん。合気道の技は千変万化、そのときそのときで全て変るんや。同じ形など存在せーへん。それやったら皆わからんから、仮に、こうやということで、形というのがあるんや。それでも、受けが変ればやっぱり変る。万能で完全な形なんかないんや」と言われていました。

要するに、合わせを失敗すると、どんな角度に持って行こうとも、腕力でやっているということになるのです。それほど「合わせ」が大切だということです。ただし、テコの原理で、最も小さな力でいける角度はありますが、それは合わせではありません。ですから角度を気にすると、木を見て森を見失うことになりますので、一言添えておきます。

尚、井口師範は「合わせ」とは一言も言われませんでした。井口師範は「技のポイントはコレ。分かるね? コレ! コレが秘伝! それから次がコレ。それで、コレ。こうする! コレ全部、秘伝! いいね? ホンなら、言うたとおりやって見て!」というような感じでしたのた。「コレ」といわれても、だと後で分かりにくいので、私は勝手に合気道関係の本など参考に「合わせ」とか「導き」とかせっせと名前をつけていきました。

師匠は「秘伝には名前は無い。名前があったらこだわる。こだわったら自然とは言えん。合気道は茶道でいう一期一会を大切にせなあかんのや。合気道の本質は一期一会の技や。そやから秘伝には名前はないんや」と言われていました。

しかし、「名前がないと覚えられない」のです。達人にもなると、「あの技をあのようにかける」など思わず、自然に体に動くとのでしょうが、天才でない稽古段階の人は、それを習得するには、名前がないと心に掛かりませんから、覚えられません。

翁先生も「覚えて忘れよ」というような教えで、技の名前さえこだわらなかったようですが、それでは、一部の才能ある天才しか体得はむずかしいのではないかと私は考えています。

少し話がそれますが、以前の話ですが、ジークンドーという武術をやっていたとき、そのセミナー会場で、ある武道をやっている人に、「私は合気道をやっていた」というと、「ああ、合気道ね。俺は合気道は武術と思っていないですわ。柔道や空手は稽古すれば、誰でも、ある程度のレベルになけれど、合気道は、何年やっても、まともに使える人は稀で、殆どが使えない人ばかりで口ばかり。俺が今までにあった合気道の黒帯の人全部、空手や拳法で3ヶ月ぐらい稽古した人のパンチすら捌けない人ばかりでしたよ。 だから、合気道はね……」と言われたことがあります。まあ、『悔しかったら、立ち会ってみろ』とでも言っているようでした。

そこで、その方に、パンチを打たせ、技の説明し、術理がわかれば、簡単に合気道の技が使えるということを納得していただきました。

ですから、「秘伝やノウハウや術理は邪道で、合気道の技は、自然と体得するもの」とおっしゃる方が、合気道をやっているとわりと多く見かけますが、お金を頂いて生徒を持つ以上、わかりやすく教えるのが指導者の義務だと私は考えています。そのためには、やはり、分かりやすく、理をもって説明してあげるのが大切だと考えています。

それはともかくとして、最終的には、術理が体に染み付いて、自然と出なければいけないということで、その結果は「技にこだわらなくなる」ということです。ですから、初めは、こだわるべきところはこだわらないと稽古にならないということだと思います。

皮膚の技術と皮膚感覚の技術

最近、日記の方がおろそかになっていました。一応、このブログは生徒に、稽古した内容に近いことを書くと言っておりますが、最近、実は、日記には書けない「相手を崩すための技術」を稽古していたためです。日記に書けないというのは、秘伝であるということもあるのですが、図解であらわさないと説明が困難な技術であるというのが大きな理由です。

ちょっと興味がある人のために、少し触れておきますと、最近まで稽古していた、肩に触れて崩すという技術の一番大切な考え方と技術を稽古していたのです。

また、基本的な稽古にもどりましたので、今回の稽古のまとめを書くことにしました。
今回の稽古内容—————————————————
皮膚感覚の技術の稽古・「体の転換」の術理・「座り技呼吸法の術理」・拳法などのパンチに対する「合わせの術理」を稽古しました。

体の転換の術理では
①気の流れを伝える「体の転換」(合気会二代目吉祥丸道主が演武で行った形)
②皮膚の技術の合わせを使った「体の転換」
③骨の技術の陰の技法を使った「体の転換」

座り技呼吸法の術理では
①皮膚の技術
②皮膚の合わせの技術

パンチに対する合わせの術理では
①パンチを出す前に相手を崩す技術
②パンチを受けて相手を崩す技術

以上

映像をUPしたかったのですが、上手く取れておらず、後日、できればですが、編集してUPできればと思っています。
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ちなみに、よく混乱するのが、皮膚の技術と皮膚感覚の技術です。ともに皮膚に関係がありますが、それぞれまったく異なる技術です。

特に感覚で大きな違いがあります。皮膚の技術では、自分(自分の丹田)と相手との間に力感覚のあるツナガリを感じますが、一方、皮膚感覚の技術では、「ゼロ感覚」というぐらい、力感覚のツナガリは感じません。ツナガリ感としては、相手にべったりとくっついていくというかへばりついて行くというような、いやらしいツナガリ感です。

この様に合気道では、力感覚を感じつつツナガリがあったり、力感覚がゼロであるツナガリがあったりと、状況や技術により異なっています。しかし、通常の合気道の道場では、この違いをまったく説明しないため、高段者の人でも、混乱していると聞きます。

でも、この違いの区別なしに、技をかけることをしないと、効く技にならないのではないかと思います。

このブログを読まれている合気道修行者の方で、今までその区別が分からず、技が効いたり、効かなかったりするとお悩みの方は、効いたときのイメージを思い出して、それをヒントに、稽古に当たっていただければと思います。