合気道の秘伝と中国拳法

先日、中国拳法修行者の個人指導を行った際に、その方が
「合気道の秘伝を学ぶと、内家拳の動作の意味がどんどんと分かるようになってきます」
とおっしゃいました。

その人によると、中国拳法を伝授されたとき、あまり理論的な説明がなされていないため、十分に消化しきれないところがあったそうですが、「合気道の秘伝をやることで、別の角度で学ぶことができるので、その意味がすごく分かるようになってきた」そうです。

実は、かつて、内家拳の達人の方と対談したとき、
「井口師範の秘伝はかなり高度な私たちの技術と一致しています。正直、私たちの技術はもっと奥の深いものはまだまだありますが、井口師範の伝えた技術は、一部の方を除いては、一般に日本で行われている中国拳法の人たちにはまだ伝わっていない技術です。実は、私たちの会の先師が合気道開祖・植芝盛平翁先生とモンゴル遠征の際に接点があり、内家拳を伝えたということが私たちの方で伝え残っています。井口師範の残した秘伝には、翁先生がその際に受け取った技術をかなり完全な形で伝えていますので、井口先生は、翁先生の相当な信認を得ていたのが分かります。理論として残っているのは多分全国でも井口師範だけかもしれません」
と、言っていただいたことがあります。

この話を聞いたとき、井口師範から、非常に貴重な秘伝をお伝えいただいているのだと感謝するとともにとても驚いたのを今でも思い出します。

ここで、中国拳法を知らない人のために、少しふれておきますと、中国拳法を分類すると、外家拳と内家拳に分けられます。外家拳というのは、少林寺の僧が修業した拳法(総称して少林拳)をさします。一方、内家拳というのは、中国独自の宗教である道教由来の拳法で、太極拳、形意拳、八卦掌などがあり、特に気を使った内功(内面の気の力)を重視する拳法のことです。

ちなみに、私が指導している中国拳法修行者は、内家拳である太極拳と八卦掌をそれぞれ別の師匠から教わったそうです。

合気道と中国拳法はまったく関係がなさそうで、非常に近いものかもしれません。

以前、空手家の方が東京から学びに来られたときも、「空手に合気道の秘伝を活かせることができる」といわれましたが、空手は元々は中国拳法から来たものですので、大切なところは同じなのかもしれません。

合気道と杖(じょう)

今年になって、当会では合気道の杖(じょう)の扱い方を生徒さんたちに教え始めました。実は、合気道の杖は、皮膚感覚の技術を使って行う上、じかに肌にふれないため、皮膚感覚をより敏感にする必要があるので、皮膚感覚の技術をより高く引き上げる効果があるのです。

ところで、合気道を剣の理合で解釈する師範がたくさんおられます。とくに岩間の斉藤師範は、「開祖は武器法を重視していて、『合気道は剣の理合の体現している』とまでいわれた」といっておられます。

ところが、私は、剣をあまり稽古したことがありませんし、私の師匠である井口師範から、「剣をふるより杖(じょう)を振れ」と言われたからです。

実は、私は、ある合気道関連の本で、「合気道は剣の理合で動く」と書かれていたのを見て、師匠である井口師範に、木剣の素振りの仕方を教えて欲しいとお願いしたところ、
「剣よりも杖(じょう)やなあ。できたら鉄の棒使ったほうがええんやけど。翁先生もいつも鉄の杖を振っていた」
と、言われ、杖の扱い方を教えていただきました。

その際、井口師範がおっしゃいました。
「剣は刃を持っているから、斬るということに意識が行ってしまい、そこにこだわりができる。合気道は自然の理で動くからこだわりがあったらだめになる。剣をするなら、こだわりがなくなってからでないと合気道をするのには百害あっても一利もない。杖は刃がない分、自由であり、変化自在に扱うことができる。それから気の流れを意識することもできる。だから、剣など振らずに杖をふれ」

杖を学んでみて、初めて井口師範がいわれたことが納得できました。また、合気道の武道としての相手との一体感が、素手のときよりも実感できるように感じました。

ところで、一体感というと、合気道では、よく愛をとき、相手と一体になれと教えますが、これが非常に抽象的で、各師範の主張していることが、それぞれ違いがあり、よく分からないというのが実情ではないでしょうか。

ところが、自分の持つ杖が常に相手との境界線となり、確実に相手と自分を隔てています。自分は飽くまでも自分であり、相手は相手であるという認識のうちに、技になっていきますが、常に、相手とツナガリ感があり、相手を導くという感覚と相手との一体感があります。特に、対剣の稽古をやっていると、あたかも太極拳であらわす太極図(白黒のオタマジャクシが向かい合って円を作っているような図)のような感覚を感じます。

すると「相手に侵させず、相手を制す」というのが体で理解できます。この経験をすると、合気道の技に変化ができ、形にこだわらず、相手を倒すという動きになってきます。ですから、合気道を行う人はできるかぎり杖を稽古されることをお勧めします。

このように説明すると非常に難しいように思われますが、師匠が教えてくださった杖術は、非常に単純な技法ばかりです。
一人稽古用には、杖の回し方、突き方、振り方など数種類、二人で行うものとして、合気道でよく見かける投げ技、相手の捕らえ方など数種類しかありません。しかし、師匠はそれだけで十分と言っておられました。ただ、秘伝があり、これがないと多分、いくら稽古をしても役には立たないと思います。

一部の合気道家が神道夢想流の杖術を学んでいると聞きますが、合気道の杖術だけで十分だと私は考えています。

私がこう言うと、神道夢想流のことを知らないくせにと思われるかもしれません。過去に、「井口師範は杖術をちゃんとどこからも習っていないのだから、いい加減なものだ」と私に言われた師範もいらっしゃいました。

(その師範のおっしゃるとおりでした。井口師範は翁先生に合気道として杖を学ばれましたので、確かに他のどこからも学んでおられませんので、流派としての杖術はご存知なかったと思います)

私は、本などで、神道夢想流の杖術の使い方を見ましたが、私が井口師範から学んだものとまったく違う気がしましたし、実は、私は神道夢想流の杖術の一日講習会に参加をした経験もあります。たった一日ですが、そこで学んだ杖の技術は、合気道で教える杖術とはまったく異質であると思いました。その上、一日講習会に参加した際、故意ではなく、誤って合気道の杖の使い方をしてしまい、先生の一人を投げ倒してしまったという経験もしました。

断っておきますが、合気道の杖の使い方の方が、神道夢想流より優れているといっているのではありません。神道夢想流と合気道では杖術でも、理合が違うということを言いたいのです。そこで、誤解を避けるために当時のことを少し話しておきたいと思います。

稽古も終盤に近づいてきたころ、先生の一人が、私に
「おお、大分、うまなったな。ホンなら、どこからでも好きに掛かってきなさい」
とおっしゃいました。
私は非常に困りました。好きなようにといわれても、神道夢想流の杖の使い方は不慣れで上手くできそうになかったし、剣道すらやったことが無かったからです。
先生は、
「何、ボーっとしてるんや! 早くしなさい。考えていても上手くなれへん!」
とおっしゃりました。

そこで、何度か、そのとき習った方法で攻めていこうとしましたが、簡単にあしらわれてしまいました。
先生は、簡単に捌けると自信を持ったのか、
「何やっとる、もっと、気合を入れて! もっと本気でかかってこい」
とあおってきました。

私は、そう煽られても、どうしていいか分からず、ふと思わず相手の杖に合わせを入れ、相手の中に入身をしてしまいました。反射的に出たのです。その反動で、相手をしてくださった先生は反り返り、そのまま倒しれてしまいました。こんな公衆の面前で、偉そうに言っていた先生を、あまりにもあっけなく倒してしまった私は、相手のプライドなど考えると、どうしていいのかわからず、
「えっ、えっ、あれ? えっ、何で?」
と言っていたように思います。

相手をしてくださった先生は
「あー、ビックリした」
と連発されていましたが、もう私の相手をせずに、他の人のところに行ってしまいました。

このことからも言えることは、
①その先生は、こちらがまったくの素人と思い、なめて掛かっていたこと
②その先生にとって今までに経験したことのない技術によって、異質の戦い方をされたこと
で、この先生は、対処できなかったのだと思います。

話しは元にもどしますが、合気道の指導者の方で、合気道の杖では不十分と、神道夢想流をされる人が割といらっしゃると聞きます。私は、他の武道を参考にするのはいいが、合気道の杖は飽くまでも合気道であり、他とは異なりますので、合気道の修行者は合気道の杖の使い方を稽古するのが一番いいと考えています。合気道の杖の使い方では、素手で行う合気道の形にも十分応用ができるという点で、皆さんももっと合気道の杖に自信をもって欲しいと思います。

ただ、合気道の杖の扱い方が一部では省略され、高段者になっても知らないという人も増えていると聞きます。もし興味おありの方がいらっしゃったら是非こちらに来てくださればと思います。

お問合せ先は
http://kenkogoshin.tank.jp/contact.html

一般稽古スケジュール
http://kenkogoshin.tank.jp/schedule.html

当会ホームページ
http://kenkogoshin.tank.jp/

合気道で技術を教える難しさ

最近、合気道の技術を教える難しさを感じています。自分ではかなり理論を整備して、教えているつもりなのですが、微妙な感覚を伝えるのは難しいように感じます。今回の内容は非会員の方にはあまり分からないと思いますが、そんな技術もあるのか程度でお読みいただければと思っています。

ところで、中国拳法の修行者の人に「合気道を修行者が、ある程度二人で行う通常の形が分かってくると、それを一人で行えるエア合気道ができるようになります。」と、昨年話したところ、「一人で稽古できる形を作ってほしい」といわれ、、皮膚の技術を使った形を制定しました。

ところが、この形を皮膚感覚の技術をメインで稽古する段階になった人にさせると、非常に難しようです。

そこで、私自身で、皮膚の技術を意識して演武したあと、皮膚感覚の技術を意識して形を演武してみますと、手の動きがまるで違う!

どう違うかというと、正面打ちの技を、皮膚の技術で行うと、手の軌跡は、丹田当たりにあるところから、真っ直ぐ額の前の正面に行き、そこで手首の裏が相手側に返りますが、皮膚感覚の技術で行うと、右正面打ちを捌く場合を考えますと、下にあった右手は、一旦、親指が相手側を向いて自分の左顔面をガードする位置を通って掌が返りながら正面にでます。

なぜそうなるかというと、皮膚の技術は直接相手に呼吸力を伝え、皮膚感覚の技術は間接的に呼吸力を伝えるから、皮膚感覚の技術では螺旋の動きが入るためです。

では、どちらか一方の技術に統一した方がわかりやすいのではということになりますが、初心者の人にはいきなり皮膚感覚の技術は難しく、皮膚の技術から皮膚感覚の技術に持っていくのが最適と思われます。

また、護身を考えた場合、修行者の技術が多いに越したことはありません。それに、皮膚の技術も皮膚感覚の技術も非常に大切なベーシックな技術であり、骨の技術の上位技法で、次の空間感覚の技術の基礎となる技術ですので、どちらも重要です。ですから修行者にはどちらも習得していただく必要があります。

ただ、現状を見てみると、学んだ人たちが混乱しているという状況のようです。そこで、今後はこの違いを教えていく工夫が必要だと感じました。

これを読んでいる会員の方も、皮膚の技術と皮膚感覚の技術と違いに十分気をつけて学んでください。

骨格をずらしてバランスを奪う

明けましておめでとうございます。
皆様、本年もよろしくお願いいたします。

さて、前にも書きましたが、私の合気道の師匠である井口師範が言ったことですが、合気道の修行者の方がよく陥る思い込みは、初心者はもちろん師範や高段者の人も含めて「形を絶対視する」ということです。「形の絶対視」というのは、「形」が完全にできればどんな相手でも対処できるという思い込みです。

合気道の達人・井口雅博師範は、「合気道の技は一期一会。一つとして同じ形はない」といいました。でも、「合気道の投げ技は枝葉。幹さえ分かれば、皆一緒」ともいわれました。これは、「原理は共通」ということを言っているのです。

そして、その「原理」の一つとして、今回ご紹介する「骨格をずらす」という技術があり、当会の分類では反射の技術にあたるものです。これについて、多くの合気道家は、単に「バランスを奪う」というだけであまり触れていないのが普通じゃないでしょうか。今回は映像を撮り、その原理を説明しています。そのポイントは3つです。
① 受けの肩関節をずらす
② 受けの肘の位置を受けの中心軸の後ろに持ってくる。
③ ①②の状態で相手を下方に導く

これだけで、技は随分と効き易くなります。

さらに、秘訣としては、相手にさとられないように、肩関節をずらしたり、肘を軸の後ろにもってくるために、「骨の技術」を使います。映像では「陽」の技術(興味ある人は小説の後半部を読んでください)を使っています。特に重要なのが「相手に自分の意図」を読まれないことで、陽の技術や陰の技術を使うと、読まれにくくなります。これに成功すれば、受けの人にしきりに不思議がらせることができます。

          * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

この「骨格をずらす」ことに関連してですが、以前、Youtubeに「隅落としの原理」の動画をアップしましたが、まだ「隅落とし」が分からなかった人は、上記の点に注意してもう一度見ていただければと思います。

というのは、この動画が、私がアップした動画でもっとも良く見られていて、他の動画の2倍から3倍見られています。このことは、「隅落とし」に対して、多くの合気道修行者が悩んでいる技であるということを示しています。確かに「隅落とし」の原理がわかれば、「天地投げ」も同じだとわかります。

この「隅落とし」の動画は、当会の生徒が見るように作ったものなので、一部のポイントは省いていますので、この動画で説明している通りに動いたつもりでも、多分上手く掛からなかった人が多いのではないかと思いますが、「骨格をずらす」点に注意してもう一度見てください。少し技が理解でき、技が人に掛かるようになった合気道修行者が増えたのではないでしょうか。

なお、完全に逆らう相手にはどうしても「合わせ」を入れてから、「陽の技法」を使わないとかかりませんが、これだけでも、合気道の修行者に十分役に立つのではないかと思います。「合わせ」に関しては、言葉では中々説明がつかない技術です。映像では、皮膚感覚の合わせを行っております。興味のある方は、体験は無料ですので、当会に体験にきていただければと思います。