【脱力について3 脱力のもう一つの意図】

合気道では片手取り、両手取り、諸手取りなどの技があります。
「相手に手を持たれたら」と説明されることが多いと思います。

しかし、井口師範は
「相手に手を持たれたらもう遅い。相手に手を持たせないといけない」
と言われました。

これを読まれている人の中に
「なるほど! 相手の『先を取る』のか!」と思う人もいると思います。

そう考えた人は合気道を武道としてとらえている方だと思います。確かにその通りです。
しかし、『先を取る』というのはその通りですが、「それだけを聞いても、具体的に持たせるというのはどうするのか?」という問題がのこっています。
多分どうしていいのかわからない人が多いのではないでしょうか?
これでは、99.9%の人は技の質は全く変わりません。

ではどう『先』を取るかというとですが、実に話は簡単で、『先を取る』には、単に相手に持たれたときに『脱力』するだけです。

しかし、本当に力をダラーンと抜いてしまったら技なんかかけられません。前にもお話ししましたが『脱力』といっても本当に力を抜いてしまうわけではありません。飽くまでも、自分自身に『脱力感』があるようにするとういことです。この具体的な技術を合気道では『合わせ』といいます。当会では『骨の技術の合わせ』と呼んでさらに具体的な方法を稽古します。

「でも、『脱力感』というのがどんな感じかわからない」と言われる方もいらっしゃるでしょう。それを知るには『脱力感』の反対は何かと考えていただければいいと思います。

以前にお話ししたように「脱力感」の反対は「ぶつかり感」ですね。相手の力にぶつかっている感覚があるのが「脱力感」の反対です。

このぶつかった状態を具体的にいうと、肩の筋肉にあたる三角筋、力こぶの上腕二頭筋の緊張があり、力が入っていると感じる感覚です。

実は、この状態は非常に危険です。何故なら、三角筋や上腕二頭筋の緊張は接触点を通じていち早く相手に伝わります。そうなると、相手からこれから自分がどのように動くかというのが手に取るように分かりやすくなります。これでは相手に技を掛けるということはできなくなります。

合気道の技を成功させるにはポイントは、「情報遮断。相手にこちらの意図を読ませないこと」ですから、『ぶつかり感』があるということはまるきり反対のことをしているということですので、この『ぶつかり感』をなくした『脱力感』が合気道の技を成功させる最大のポイントとなる訳です。

言い方を変えると『脱力』するのは、「相手にこちらの情報を遮断する」という意図があるのです。

【脱力について2 気の専門家も筋肉を使っている証拠】

前回の記事では「脱力」の意味と「気」の関係について述べ、「気」の専門家の空中腕相撲の話をしました。その際に「気」の専門家も筋肉を使っているという話しをしました。その映像をYoutubeで見つけたのでご紹介したいと思います。

この映像でもわかる通り、日本有数の「気」の使い手である宇城氏でさえ、前進の必要な筋力は使っているということです。
ただし、腕の筋肉は殆ど使われていない(全く使っていないのではないことに注意)ため、脱力感は感じているだろうということは分かります。

この空中腕相撲ですが、実は、私もよく会員の方にやるのです。これを行う自分自身は、そんなに力をいれている感じがありませんが、受けている方は「とんでもない力でなぎ倒された」と感じるそうです。

また、より敏感な人は「力を出しているのに思うように力が出なくなった」と感じます。人によって様々ですが、大切なことは「力が抜けてぶつかっていない」感覚は相手にはありません。

そう、「力の抜けた」状態というのは、飽くまでも自分が感じる非常に主観的なものです。ですから、相手はそうは感じてはいないということです。

合気道には、相手にフワッと倒されたと感じさせるソフトに導く方法もあります。しかし、合気道の技のすべてがそういうものではありません。

ちなみに、相手をソフトに倒す原理は、まず第一に、「相手のバランスを崩す」点にあります。相手はバランスが崩れているので、力が入らず単に落下するため、技の掛け手の力を感じずに倒されただけです。この方法については今回は話が外れるので述べませんが、「力を抜く」ことの大切な点は、自分の感覚として「相手の力とぶつかっていない」ということです。

【脱力について1 「脱力の意味と気の関係」】

合気道では腕や肩の力を抜けと教えます。
特別な素質の無い普通の人なら、「腕や肩の力を抜け」と言われても、簡単に力が抜けるものではありません。

正直、本当に力をぬいたら、腕がフニャフニャになり、技どころではありません。

合気道の指導者により、「筋肉を使わず、気を使う」と教えます。
「なるほど! 気のパワーか」と納得する人も多いでしょう。
ところが、「本当に『気』って何かわかってますか? あなたはそれを理解していますか?」という質問に科学的根拠で答えられる人は多分誰もいないと思います。

ところで、テレビ番組でもありましたが、「気」の専門家とボディビルダーが空中での腕相撲をする際に、筋電図を取ってみると、やはり筋肉は使われているというデータがあります。ただ筋肉の使い方が違うだけという結果となっています。「気」の専門家が本当に「気」だけで行っているのなら、筋電図では反応がないはずですが、ちゃんと筋肉に反応がありました。

ですから、合気道では筋力を使わないというのは大きな間違いだと私は考えています。「力を抜け」というのは、「筋肉を使うな」ということではないのです。腕を動かすには絶対に最低限の筋肉を使う必要があります。ここを勘違いしている人が非常に多いと思います。

それでは、「力を抜け」という本質は何でしょうか?
それは、合気道の技において適切な筋力の使い方をしたとき、「脱力感」があるということで、筋力を使っていないということではないのです。

さらに、の「脱力感」とはどのようなものなのでしょうか?
それは、相手とぶつかりが感じない状態を示します。

といいましても、相手は、非常に大きな力を感じていたり、重さを感じていたり、フワッと崩されていたりと状況によって感じ方が様々です。

このように「脱力感」というのは、非常に主観的な感覚なのです。

さらに、適切に筋力を使っていると「脱力感」以外に、「気の流れ」を感じます。特に「気の流れ」を感じるのは、身体全体が適切に、物理的に最も安定した強い状況で使われているときに感じます。

言い方を変えると、「気が入った」状態というのは、正しい身体の使い方ができたときに感じる状態と考えてもらった方がいいでしょう。

「気」が入ると強くなるのではなく、正しい身体の使い方をすると「気が入った状態」あるいは「気が流れている状態」と感じる人が多いのです。

といっても、正しい身体の使い方ができても「気が入った状態」を感じない人もいますので、感じないからといって正しい身体の使い方ができていないとは言えません。

このように「気」を感じようが、感じまいが、正しい体の使い方というのは人間であるかぎり、誰でもできますが、逆に「気が流れている」と思うだけでは、正しい適切な体の使い方ができるとは限りませんので、注意が必要です。

確かに稀に才能のある一部の人はそのように思うだけで身体が勝手にそのような状態になりますが、、普通の感性の人は、正しい身体の使い方を覚えて、初めて「気が流れる」感覚を感じるようにした方がいいと思います。

【形稽古の注意点】

8月4日、関東からある男性が、当会の技術の個人指導を受けに来られました。

この方は以前、空手をベースにしつつ、ムエタイやカポエイラを少し習ったと言われていました。

当会の技術に興味を持った理由を聞きますと、
「打撃系格闘技では、過剰防衛になる恐れが高く、また相手をかなり痛めないと護身に使えない点に疑問を感じた」
ということで、合気道関連についていろいろと調べていたら当会の映像に行き着き、当会の映像をみていると、
ただ事ではない何かを感じ、個人指導を受けることにしたとのことです。

個人指導を終えたこの方から、当会の技術を非常に高く評価していただき、大変喜んでお帰り下さいました。

ところが、今回私なりにとても反省させられた点を感じ、記事として書きました。

その反省点といいますのは、合気道初心者が形稽古においてやってしまうような失態をやってしまったことです。
具体的には、当会の「空間感覚の技術」の説明での実演の際、バットで一度頭を殴られてしまったのです。

バットと言っても、おもちゃのバットなので全然ケガはありませんが、【本質】の指導中に、【本質を忘れた動作】をしてしまったことに、指導者として深く反省をしております。

もう少しことの詳細を説明しますと、「空間感覚の技術」を説明するために、相手の方に、おもちゃのバットをもってもらって好きなように殴ってもらい、それを避(よ)ける技術を体験してもらおうとして、何度か殴りかかってきていただきました。

その何度かの繰り返しの際に、私はあろうことか、空間感覚の技術を用いず、単に機械的にバットを避けようとしてしまったのです。

特殊な技術を使っていませんし、おもちゃのバットは非常に軽いので素早く反応できますので、当然、頭を叩かれても仕方がありません。

しかし、つい機械的な動作に陥り、何も考えず迂闊に動いてしまったことはまだまだ修行が足りないとしか言いようがありません。

師匠は、「何も考えずとも体が自然に意図を作って動かなければ達人とはいえない」と言っていましたが、師匠の足元まで全く程遠いと思いました。おもちゃのバットは非常に軽いため、相手はこちらの動きに早く対応できます。それをわかっていながら、このような状況になるのは、本当に未熟としか言いようがありません。

会員の皆さんも、形稽古において私のようなミスをする可能性がありますので、勉強のため、今回の件をもう少し詳しく説明しておきます。

空間感覚の技術の使い方は
①相手との間合い、特に相手がどこで攻撃するかという間合いを測っておく
②相手がその間合いに入る前の瞬間に空間感覚の技術を発動する。
ということになります。

空間感覚の稽古では、よく皆さんもよくやってしまうことに、①をして、②のタイミングが遅れるのはよくあります。

ところが、私の今回のミスは、①すらしなかったことにあります。
(①をしないということは当然②もできないので、空間感覚の技術を使えなかったということです)
何度も技が繰り返されたため、つい気が抜けてしまい何も意図せずに動いてしまったのです。

これは、空間感覚の技術だけではなく、どの稽古においても会員の皆さんも充分注意する必要があると思います。形稽古をやっていてもっとも陥りやすい点です。形稽古では、何も考えずについ淡々と技をただこなしてしまいますと、気の抜けた稽古にしかなりません。意図をもって意図通り技に掛けなければ稽古してもしかたがありません。

しかも、こういった気の抜けた稽古は癖がつきます。癖がつくと、私のように肝心なときでも、ふとやってしまうことになりかねません。

このようなミスをしたことは、指導者として本当に情けないと思いますが、自己の反省と皆さんへの反面教師という意味から記事として書きました。