当身について③

前回に引き続いて、当身についてお話ししていきたいと思います。前回は、当会の当身の原理を「骨の技術」と呼んで、重要な稽古の一つと分類しているとお話しをさせていただきましたが、もう少し踏み込んで今回はお話しさせて頂きます。

当会の「骨の技術」は、動作の起こりの原理から、4つに分類し、第1式から第4式があります。

  •  第1式 : 攻撃方向への移動に伴う当身
  •  第2式 : 回転運動による当身
  •  第3式 : 位置エネルギーを利用する当身
  •  第4式 : 頭の重さを利用する当身

となっています。

また、これらの当身で、

  • 攻撃する方向に対して、身体の加速を加える陽の様式
  • 作用・反作用を利用する陰の様式

があります。第1式~第4式まで陰陽をあわせると8つに分かれます。さらに、運用の際は、それぞれを同時に混ぜて使ったり、連続で使用したり行いますから、組み合わせは無数存在することになります。

しかも当身の原理(骨の技術)は、単に当身を行うだけでなく、投げ技の動きにも利用しますので、非常に大切な技術となっています。ですが、文の上で全てを説明するのは非常に困難で、たとえ、打撃の専門家であっても、大きな勘違いをしてしまう恐れもありますので詳細な説明は省きたいと思います。要は、動作を伴った骨格の正しい使い方の理論ということだとご理解ください。

次回は、当身についての意外な心理面について少し触れたいと思います。

当身について②

前回に引き続き、“合気道の動きの基礎をつくる”当身(あてみ)の技術についてお話ししていきたいと思います。(ちなみに当身とは合気道での打撃技術のことです。)

私が、井口師範から指導を受けた当身の技術は、身体面と意識面に秘訣がありました。今回は身体面についてお話しします。

井口師範は、「当身の中に合気道の動きの基本がある。気の起こり、気の流れ、気の伝わりや。気をコントロールするのは当身からなんや」とおっしゃられました。

気というと、特殊能力のある人のものなど使えないと思われる方がいるかもしれませんが、実はそうではありません。当身の技術で扱う“気”というのは、運動エネルギーであり、それに伴う身体の感覚と考えていただいた方がいいと思います。

ですから、超能力のような特殊な能力を備えている必要はまったくありません。単に物理の法則に従うだけでよいのです。物理の法則に従うということは、当身は「天地自然の法則に従う」とも言えるわけです。

さて、当身の技術が物理の法則に従うということは、何を意味するのでしょうか? それは、身体の構造と使い方が大切であるということを意味します。ですから、身体の構造と使い方が分かっていないといけないのです。

まず、身体の構造についてですが、身体の構造で一番基礎を構成しているのが骨格です。これに筋肉が付いて、体が自由に動くのです。これに関しては異存ある人はいないでしょう?

骨格が身体の基礎を構成している以上、骨格の正しい使い方と正しい位置というのがあります。正しい、正しくないの判断を具体的に言うと、骨格がある特定の状態のとき、ある方向に対して力学的に強いとか、弱いとかいうことです。これを無視して理に適った正しい動作を行うことができません。

さらに、人体は固定された建物のような構造物ではありません。動きを伴った構造物であり、物理学的にいうと運動エネルギーを持った構造物です。ですから、静的な力学的強度だけを考えるのではなく、それに運動エネルギーが加わえて考えないといけないわけです。このように、動く人体は、動的に骨格を正しく使う技術が必要ですから、当会では、この技術のことを「骨の技術」と呼んでいます。

さらにもう一つ言い添えておきますと、正しい骨格の使い方をしたときに、体に気の起こり、気の流れ、気の伝わりなど感じます。そして「これが気なのか!」という思いが浮かんできます。

ですから、井口師範の「気が出る」というのは、実際に身体上で強度的に強い構造ができていないとだめであり、思うだけで気がながれるという想像力や意識だけで作るものではないのです。この点をよく理解して、骨の技術の稽古をすると、確実にさまざまな発見に行き着きます。

会員じゃないこのブログを読まれている方が、例え骨の技術が何か理解できなくても、そこをおさえて稽古してみられると、何か発見できると思います。次回は、さらに踏み込んで、当身の身体面の術理を紹介していきます。

当身について①

最近、私のブログに合気道修行者の方々が興味をもたれているようだとわかりましたので、そういう人たちのために、少し私の学んだ合気道について述べたいと思います。

まずは、合気道における当身(アテミ)について述べたいと思います。ちなみに当身というのは、パンチや手刀や肘や体当たりなど合気道における打撃技のことを指します。

近年の合気道の稽古では、当身を軽んじる傾向があると聞いています。しかし、当身は非常に大切な技術ですので、少しでも当身に関して興味をもっていただければと考えて、何度かに分けて当身について述べさせていただきます。今回は当身の意義について述べます。

私の師匠である井口雅博師範は、当身を非常に重視され、常に稽古するように言われていました。
それは次の3つの観点から言われたものでした。
①武道としての実用性
②合気道の動きの基礎作り
③対処のためには、原理を知ておく必要性がある

①に対しては、開祖・植芝盛平翁先生は、「合気道の実戦では、当身7分に投げ3分」といわれているのと同等の理由です。

②を指摘すると、多くの合気道家は「?」と思うようですが、実は当身の身体の使い方は、投げに共通するところが多いのです。
当会では、当身を骨の技術という名称で、鍛錬していますが、詳細は後日ご説明できればと考えています。

③に対しては、例えば医療では、人間の体に悪影響を及ぼす要因を研究します。要するに毒となるものを研究する訳です。しかし、それを悪という人は一人もいないでしょう。

でも、悪用すれば、大量殺人も可能な危険なことです。「悪用を考えると研究なんかとんでもない。即刻研究をやめるべき」と言っておられるでしょうか?

人は知らないことに対処しようがありません。当身もそれと同じで、当身に対処しようと思えば、合気道修行者も当身をよく研究し、どんな原理でパンチが飛んでくるかを知っておく必要があります。

最近の合気道指導者は、当身に対して否定的で、指導をされた経験がないという方が増えていると私は聞いていますが、当身の原理を分からずして、当身に対処できるのか私は甚だ疑問に感じています。

私の知り合いに、フルコンタクト空手を少しやったことのある合気道四段の方がいらっしゃいますが、「どこの道場でも、女性が二段にもなると、どんな相手でももう大丈夫と考える」と言っていました。

しかも、その方が、例えば空手の初級クラスでも簡単に捌けるパンチを出してみても、まったく対処すらできないそうです。ところが、女性たちは、「相手が自分より上の四段だから対処ができない。でも、他の武道二段なら大丈夫」と思うそうです。

このような思いこみは当身を知らないから起こることで、指導者の責任ですので、その様な女性をだれも責めたりはできません。

まだ、男性の場合、テレビでボクシングやアクション映画を見たりして、何となく当身の怖さをわかっているので、「自分の合気道は実際つかえるのだろうか?」と考える人は女性に比べてかなり多くいると思います。

そこで、そのように考える男性や女性の合気道修行者の方々は、さらに踏み込んで当身について研究してみては如何でしょうか?

次回は、もう少し当会に伝わる当身について述べてみたいと思います。