「何事も中心が大事、中心を見失ってはいけない。中心と言うのは、合気道を木で例えれば、幹にあたるもの。幹を育て、大木とならないといけない。枝葉を見て木と思ってはいけない。枝葉とは、片手取り小手返しとか、それぞれの技のこと。落ち葉や落ち枝をいくら集めても木にはならない。根をしっかり張って、大きな幹を育てることこそ肝心」
この前、お弟子さんたちを指導をしていて、井口師範がおっしゃった言葉を思い出しました。
ところで、一般の道場の稽古では、この“中心”すなわち“幹を育てること”を稽古をするのはとても難しいと思います。それは、井口師範が指導されていた稽古でも同じです。
と、言うのは、道場の稽古は、師範の演武を見取り、個々の技を弟子たちが互いに繰り返し稽古を行います。このとき、お互いに技をやりあうのが、“中心”が何であるが理解できていないもの同士であるというのが大きな問題なのです。これでは“中心”となる技術が習得できません。
その点、私はとても幸運でした。私は井口師範の送迎をしていて、お送りする際に、見つけた空き地や閉店したスーパーの駐車場で、井口師範に直々にご指導を受ける機会を持つことができたからです。
このことは非常に大切なことでした。技の勘所が、直々に教えていただけたことで、何が“中心”であるかを理解できました。そして、この“中心”こそが、当会で教えている技術であり、井口師範が言われている秘伝です。
この秘伝は、井口師範より口で伝えるというより、感覚で伝えていただきました。ところが、このように折角師匠が自ら感覚を伝えて頂いても、私のような才能のない人間にとっては、師匠の秘伝は分かりづらく習得するのにかなり時間がかかりました。
ですから、私は当会の会員には出来る限り直接手を取って、この感覚を伝え、常に状態のチェックをするようにするとともに、秘伝を理論的に説明し頭でも理解していただけるようにしています。
それで、会員の方々の“幹(中心)”の成長速度は、私と比べると十倍~数十倍の早さに達しています。女性会員の一年と比較しても、私の合気道歴十年のときではできなかったことを簡単にやってのけていましたので……。
また、この合気道の“幹”は、他の武術でも“幹”になります。先日、東京からこられた空手暦40年の師範も、当会の秘伝を、空手の“幹”として育てつつあるのは、前回のブログで書きました。
合気道を中心に修行してきた私としては、どちらかといえば、空手家の方や中国拳法家の方よりも、できれば合気道修行者に、幹を育てて行っていただきたいと思っています。
でも、現状は、幹を育てようとしない合気道家より、この幹を育てたいと考える他の武道家を応援したいとも思っているのも事実です。