前に書いた「力を抜く」ことに関連することですが、当会で指導している基本の柱に、骨の技法とよんでいる技術があります。これは、骨格の構造を有効に利用する技術の総称を意味していますが、関節技を如何に効かせるかというものではありません。もっと根本的な体の使い方を意味するものです。
その一番大切なポイントは、「不要な力が抜けていること」と「構造上強いこと」の2点です。
で、今日はその基本になる首の話をします。そこで、一つ実験していただきたいことがあります。
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*実験1*
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今の状況で、思い切り力を体中に入れて、力で満たしてください。力が入る限り全力で行ってください。
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すると、体は力で満たされ、外部からの攻撃にはかなり耐えられる状況は作れたように感じますね。そこで、もう少し観察すると、大多数の人は、まず首をぐっと曲げ、力を入れ始めたと思います。人それぞれ若干の違いはありますが、概ね順番は、首、背中、肩、腕、お腹、下半身と入れていったのではないでしょうか。
では、もう一度、実験してください。
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*実験2*
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今度もまた同様に力を入れてみてください。ただし、その力を入れた状態で、「私はとても力強い」と言ってみてください。
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ほとんどの人は、詰まったような声をだしたのではないでしょうか? 力をいれると声ですらまともにでません。声を出すのに力は必要ありませんから、体に力が入ろうが、声には関係がないはずですが、自然な声がでません。
しかも、力をいれるのを止めても、何かのどに違和感が残るのを感じているのではありませんか? ということは、力みがまだ消えていないのですね。
そこで、力みをとってみましょう。まず、静かにゆっくりゆっくり息を吐き、そして吸う。できれば腹式呼吸の方がいいですが、無理して腹式呼吸を行おうとするとまた力むかもしれませんので、腹式呼吸を意識せず、普通にこの呼吸を行ってください。コツはできる限りゆっくりと苦しくない程度で行うことです。この呼吸をしばらく繰り返していると、徐々にのどの違和感が消えていくのを感じませんか?
これら実験の結果からわかることは、体が力むと、体が緊張し、さらに心が緊張し、心が緊張すると体の緊張を解いてなお緊張が維持しつづけるということです。しかも、これは万人共通の原理です。
これから、様々な推測をすることができます。例えば、「人が、外敵に襲われたとき、動きを止めて、首や背中を曲げ、じっと筋肉に力をいれて我慢したときに、外部からの攻撃に対して耐えることができた種だけが、進化の段階で生き残ったため、DNAにこの動作が仕込まれているのではないだろうか。」などですが、その手の推測は、技術の実践を行う私たちには関係がありませんので、これ以上は述べません。
こうしたことから、筋肉の緊張を高め、じっと我慢すると、次の点でメリットがでます。
○体を石のように固くすることで、外圧につよくなる。
○心が筋肉の緊張に向かうことで、痛みを感じにくくなる。
○一度行うと、すぐには体が緩まないので、意識の限界が来てもなお緊張が続くので強い状況が維持する。
ところが、デメリットとしては
○攻撃をする際、筋肉の緊張は負荷になり、身体のパフォーマンスを極端に低減させる。
○素早い動きができない。
○心が外面に対して向かないので、外部の変化への対処が遅れる。
ということです。これからも十分お分かりいただけると思いますが、緊張があると、外部の攻撃には若干構造上強くなりますが、動けないという欠点がでます。これでは、武道として役にはたちません。
様々な武道では、この欠点を補おうとして様々な工夫がなされています。空手では「三戦(サンチン)」という型の稽古をします。これは呼吸を利用して、外部の攻撃に対して、非常に強い緊張を筋肉に起こすとともに、意識してすぐに緊張をとれるよう稽古をするもので、外部の攻撃は一瞬ですから、それに耐え、すぐに攻撃に移れるようにする
ものです。これにより、最大のパフォーマンスで、緊張し、弛緩するということが可能になります。
当会では合気道の秘伝技術を指導しておりますが、合気道ではどうかというと、どんなに筋肉をしめても、刀で切られれば終わりということから、筋肉をしめるということをやめ、パフォーマンスを最高に上げることに重点をおいています。合気道では、緊張をしないため、緊張が起こるプロセスと反対のことを行えと指導します。
そのため、緊張は首から起こるのであるから、首に緊張を起こさせないように、首の後ろを自然に伸ばし、背骨が上下に広がるように意識をもちます。このことを、井口師範は、「自分が一回りも二回りも大きくなったように思いなさい。そうすると、頭の天辺が点につながった感じがする。そしたら、天から気がながれてくるのを感じる」といわれました。ただ一回り、二回り大きくなったと想像すると、どうしても肩まわり中心に大きくなったと意識してしまい、逆に肩に力が入ってしまいますので、首の骨、背骨が伸び天まで達するというイメージが大切になってきます。
要するに、そういうイメージを持つと、首を縦に折らないで、首が伸び、首の後ろ側が上に伸びているようなイメージを常にもつことができます。実際は、首を曲げる方が、首の後ろが伸びるのですが、意識的に天を意識すると、首の後ろが伸びている感じがでます。これにより、いくら緊張しようとしても、首が曲がりませんので、背中に緊張がおこりません。背中に緊張が起こらなければ、肩に緊張がおこりません。結局、無駄な筋肉の緊張がおこらないわけです。それが、身体のパフォーマンスを最大に引き上げる第一段階なのです。
ですから、「首が緊張しない・させない」というのが、合気道だけでなく、あらゆる芸ごと、日常生活にも大切なことです。
次回は、肩甲骨の位置についてお話ししたいと思います。
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