「気」について2 当身の大切さ

先ず最初に、いきなり難しい表現で恐縮ですが、「取り(技を掛ける側)の意思どおりに制御された運動エネルギーで行われた技と、『気』を意識して行われた技はまったく同じように感じる」ということを覚えていただきたいと思います。

何を言いたいのかといいますと、受け(技を受ける側)は「巧妙な物理的な働きの技」と「気の働きの技」の区別がつかないということです。

また、「あなたに向かって、50キロの鉄のかたまりを、近くからでもゆっくりと投げてこられたらどうしますか?」という質問に対して、大概の人は「それを避ける」と答えるでしょう。

止まっている50キロだと、これを持ち上げようとする力自慢がいるかもしれませんが、動いてくる物体だと、状況が違います。

これは、経験的に、重いものが移動すると、それ以上の力が働くというのを知っているからだと思うのです。その力が大きいというは、正確には、力学でいう運動エネルギーが大きいということです。

私が学んだ合気道では、「相手を動かしたければ、先ず自ら動け」と指導します。これを受けて、「なるほど、愛をとなえる合気道」と道徳的に納得されては困ります。これは精神論ではなく、物理的な話なのです。先ず運動エネルギーを作って、相手に伝えるという意味です。

では、体重50キロの人が動くとどうでしょう。人が動くとあまり大したことがないように感じますが、理論的には、上記の「50キロの鉄のかたまり」の例と同じ運動エネルギーを持つことになります。ですから、これだけのエネルギーを、実際に食らったら、やはり吹っ飛んでしまってもおかしくないのです。

このように「運動エネルギー」を大きくすることが、合気道の技には有効だということです。

そこで、次に問題となるのが「運動エネルギーを作る」方法です。ただ闇雲に動けば隙ができるだけで武道としては役に立ちません。適切な運動エネルギーの作り方が必要になります。

それに関して、合気道の達人であった井口師範は、「気を起こす体作り」ということで、単独で当身(打撃の技術の総称で、掌、拳、肘、肩、膝、足などを対象にぶつける技術)の稽古を指導されました。すなわち、当身技にその基本があるとしたのです。

当身は、単なる「相手を打撃で痛めつける技術」ではありません。当会では、当身は「体に運動エネルギーを生み出す大切な基本」と考え、実行しています。

ただし、当会の当身は、他の打撃系武道のパンチとは若干異なったポイントがあります。それは、体の重心の置き方と運動エネルギーの作り方にあります。当会には、「運動エネルギーを伝える」という立場から「運動エネルギーを作り出してから伝える」陽の技法と「運動エネルギーを生み出しつつ伝える」陰の技法があります。

また、動作方法にも4種類あり、同じ方向にパンチを出すのでも、体の重心の移動の仕方や体の使い方が異なります。それらは、次のようになっています。
 第一式 重心の移動方向が直線上に移動する当身
 第二式 回転運動を利用する当身
 第三式 重力を利用して天地方向に移動する当身
 第四式 縦の振り子運動を利用する当身
これら4技法に陽と陰が加わり、当会では、当身八法と読んでいます。

そして当身では、「意思(思い)通りに相手に気(運動エネルギー)を伝える」という感覚を磨きます。この当身技ができるようになると、投げ技に応用ができるようになり、投げが変って来ます。

ここで誤解されてはいけないのが、「相手を投げる前に当身をいれて崩して」というのではないということです。投げの際に、相手に運動エネルギーを伝えるという意味です。そういった意味で、当身技は基礎の基礎、投げ技を効率的に行う体作りのための稽古ということになります。

具体的な当身の技法については、文や映像では誤解を与えるため、実際に体感で伝えるしか方法がないのが残念です。もし興味のお持ちの人は、当会では無料体験を行っていますので、私を訪ねてください。