僕の師である井口雅博師範は、常に「合氣道は自然の理(ことわり)を体現するもの」と説かれていました。
自然の理とは、僕たちが生きるこの世界の物理法則そのものです。したがって、合氣道の修行者は、物理現象と密接に関係している「氣」の特性を正しく理解し、活用できなければなりません。
今回は、合氣道の技を一段上のレベルへ引き上げるための、物理と氣の関係性についてお話しします。
1. 氣は「超能力」ではなく「自然のエネルギー」
日本では古来より、この世界は「目に見える世界(現世:うつしよ)」と「目に見えない世界」が表裏一体となって成り立っていると考えられてきました。氣とは、その「目に見えない世界」から現世を動かしているエネルギーを指します。
「氣」と聞くと、空中浮遊や壁抜けのような超常現象をイメージする方もいるかもしれません。しかし現実は、僕たちは物理法則に縛られた世界に生きています。武道において大切なのは、空想の魔法を追い求めることではなく、物理現象と氣の関わりを深く理解し、それを技に利用することなのです。
2. 「骨の技術」が氣の通り道を作る
身体を支えているのは骨ですが、実は「骨をどう使うか」に氣の流れが大きく関わっています。
骨格を最も効率的なポジションに配置できたとき、氣は最大化して流れます。つまり、正しい姿勢やポジションの確保こそが、氣を通すための絶対条件なのです。当会ではこれを「骨の技術」と呼び、稽古の根幹として最も重視しています。
自立した「中心軸」を立てる
初心者が陥りやすい失敗の一つに、技の際、無意識に相手に寄りかかってしまう(支えを求めてしまう)ことがあります。 この寄りかかられた感覚は相手にとって次の動作を知る手がかりとなり、抵抗される原因となります。合氣道において相手との「氣の結び」は不可欠ですが、自分のバランスまで相手に依存してはいけません。まずは自分の軸を相手から独立して立てること。この軸が確立されて初めて、天地から流れる氣を実感できるようになります。
「折れない腕」と「当て身」の重要性
次に重要なのがポジションです。心身統一合氣道の創始者・藤平光一師範が提唱された「折れない腕」は、あらゆる技の場面で必要になります。 この感覚を習得するための近道は、実は現在では省略されがちな「合氣道独自の当て身」の稽古にあります。正しい位置(ポジション)を知り、軸を意識することで、初めて自然の理にかなった技が生まれるのです。
3. 「氣の流れ」はコントロールされた運動エネルギー
物理学の世界では、物体の動きを「運動エネルギー」と呼びます。合氣道における「氣の流れ」とは、この運動エネルギーを完全にコントロールし、意図した方向へ流していくことを指します。
「意識(意)」によってエネルギーを丹田から腕を通して相手へと通していく。この氣の流れで大切なのは「折れない腕」です。これが加わることで、技は圧倒的な効果を発揮します。
まとめ:なぜ合氣道に「氣」が必要なのか
合氣道において氣を扱う最大のメリットは、以下の2点に集約されます。
- 相手に動きを読ませない(筋力による予備動作を消す)
- 単なる腕力を超えた威力を生む
氣を物理的な身体操作と融合させることで、合氣道は真の「武道」としての完成度を高めていきます。まずは自分の「軸」を意識することから、日々の稽古を深めていきましょう。
【ピックアップ】
なぜ「当て身」の稽古が重要なのか?
合氣道では、現在あまり当て身(打撃)を稽古しない道場も増えていますが、当会では「折れない腕」と「ポジション」を習得する最短ルートとして重視しています。
筋力を使ったパンチと合氣道の当て身は、根本的なメカニズムが異なります。これはフォームは異なりますが中国武術の寸勁のやり方に似ています。ただし、合氣道の当て身は相手を破壊するのが目的ではなく、統一体(身体のもっとも整った状態)を一瞬でつくるために稽古を行うのが目的で、合氣道では唯一ひとり稽古ができる稽古方法ですので、中国武術のように一撃で人を殺傷できる威力は求めません。
① 筋力(能動筋)で打つパンチの特徴
一般的な筋肉を使ったパンチは、見た目は非常に力強い印象を与えます。筋肉を縮めて加速させる「能動筋」を主導に使います。この打ち方では、衝撃力を上げるためには当たった瞬間に自分の体が相手に寄りかかる(相手に支えてもらう)形にする必要があり、打撃を躱され空振りをすると身体のバランスを崩す恐れがあります。
② 合氣道の当て身(受動筋と骨の活用)の特徴
一方、合氣道の当て身は、見た目はボクシングの最も良くないパンチとされる「手打ち」と違いがなく、威力もないように見えますが、見た目以上に威力があります。やり方は当たる瞬間に「折れない腕」の形が完成し、腕全体が一つの物体として、 撞木(しゅもく)(鐘をつく木のこと)で釣鐘を突くように打撃を行います。
- 地面との連結: 筋肉を力ませるのではなく、骨格を整えることで「受動筋(姿勢を維持する筋肉)」が働き、当たった瞬間の衝撃が自分の足元を通り、一瞬で地面まで突き抜けます。
- 地面が自分を支える: つまり、相手に打撃が当たった瞬間から、自分の体は相手ではなく「地面」によって支えられている状態です。要するに地面からの反作用を利用しています。
以上の理由から、例え、当て身を躱されても身体は崩れず、次の技に移行しやすくなります。
③ 「衝撃の長さ」が重さを生む
物理学的に見ると、筋肉で弾くようなパンチよりも、一瞬の衝撃力(最大値)自体は小さいかもしれません。しかし、地面と連結した当て身は、「相手に衝撃が伝わっている時間」が格段に長いという特徴があります。
- パンチ: 「バン!」と大きな音を立て弾くような衝撃。
- 当て身: 「ドォォォン」と、相手の芯まで突き抜けるような重い衝撃。
この「衝撃時間の長さ」によって、相手に与える破壊のエネルギーが大きくなり、筋力で行うパンチより数倍も重い打撃が実現します。この体の使い方を覚えると、相手の予想を裏切る為、相手は姿勢を崩され、簡単に技が掛けられることになります。
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