「力を抜く」意味2

今回はもう少し「力を抜く」の具体的な方法について書いていきたいと思います。

合気道の「力を抜く」に相当する言葉として、お隣の国の武術である中国拳法ではどうかというと、「放松」という言葉を用います。英語で表すとリラックス(relax)です。リラックスと言われ、「筋肉を一切わない」と勘違いする人はいませんね。

中国の武術では、硬気功法や武術気功法などといって、武術家は特に、積極的に筋肉を使っているような動作で気功法を行います。ただし、ウェイトトレーニングのようにある特定の筋肉を使うのではなく、ある動作に適した複数の筋肉を流れるように使います。

それを中国拳法では、「筋肉や腱に気を通す」といい、気のエネルギーですべてを動かすなどという発想ではないのです。筋肉や腱に気を通すことで強くするという発想です。そこでも大切なのがリラッスすることです。

中国拳法では、新興武術である合気道と違って、歴史が非常に長いので、かなりの年月をかけて身体に気を通しても、武器でやられたり、強い相手にかなわなかったりすることがあるのをわかっているので、大変現実主義の面があり、現実に沿った使い方のノウハウがあるようです。

しかし、日本語には「放松」や「リラックス」に相当する言葉がありません。ですから、「力を抜け」という表現になるのですが、これだと誤解が生じ、「力を抜く」ことについていろいろなことを言われる方がいるのです。ついには「筋肉を使うな」という極論にもなります。

リラックスといえば、適切なタイミングで適切な筋肉を使うことと言っても問題はありませんが、「力を抜け」といえば、適切なタイミングで適切に力を入れる発想がどうしてもかけてしまいます。

井口師範の指導する合気道では、「力を抜く」というと、「正しいタイミングで行うと、自分が思う半分よりずっと少ない力で、あたかも力を入れていないが如く感じる」ということで、決して“筋肉を使わない”ということではありません。

当会の技術に、皮膚感覚の秘伝というのがありますが、相手に軽く触れた状況を作り、相手の動向を探り、相手の動きに合わせて適切に力を入れたり、抜いたりして、相手を不利な体勢に持っていく技術です。相手と向かい合って、力を抜いて軽く触れるには、かなり心理的抵抗がありますが、それを行うと、非常に相手の動きがわかりやすくなります。
そして、手で感じた感覚に従って、力の抜き入れを行えば、思う他、相手をコントロールできます。これも力を抜く大きなメリットです。

ところで、読者の方の中には「相手の反応を待っているのであれば、相手が何も仕掛けなければ、技にならない場合もあるのでは?」と考えた方もいらっしゃると思いますが、井口師範の合気道には、自分の動きを相手の身体に伝え崩す骨の技術や皮膚の技術などの秘伝や、相手に心理的な圧力を加えて相手の動きを誘う空間感覚の秘伝があり、皮膚感覚の技術ができなければ、別の技術に移行します。

井口師範は、ご健在のころ「合気道の技は、毎回毎回違う。一期一会や。同じように見えても同じでない。それは、相手が変われば、何もかも違う。体格の違う相手に、大量生産みたいに規格通りの同じ動きで技が掛けられることはない。相手に合わせるから合気道っていうんや」と言われました。

要するに、力を思った半分以上もいらない方向というのは、時、人で変わるということなのです。そこに臨機応変さということが要求されるのですね。これは私にとっても大きな課題でもあります