【別の土俵で闘う】3

前回、合気道では相手に敬意を払うことを、「合わせる」といいましたが、その意味を今回少し考えたいと思います。

合わせるというと何だかかわかったような気になりますが、合わせるというのは、実は動作だけの問題ではありません。合気道ではこの合わせるという行為は修業者にとって非常に厄介です。何故なら、見た目は、まるで相手に逆らっているように見えるからです。

そして、達人は言います。
「相手と一体になって行ったとき、簡単にできるものです。心がつながれば、相手は自分の思い通りに動いてくれます」
「相手と繋がっていると意識すれば、相手が右手を押して来たら、相手の力を、相手と繋がっているその右手で、相手に送ることができる。だから相手は自分の力が返されるのです。」

これだけの話を聞いて、相手にそのまま力を返すことができる人もいます。でも、いくらやっても出来ない人もいるでしょう。確かに、それは達人の言っている通りなんだけれど、一度できたとしても、原理が分かっていないと、またできなくなったりします。それは、実は相手がそれに慣れて対処できるようになってくるからです。普通の人は、相手が変化に対応した時点で、また自分の力でやろうとしてしまうからです。そうすると繋がりが無くなってしまうわけです。

そこで、本質を科学的に説明しておきましょう。二足で立つというのは非常に不安定な状況なので、人間が力を込めようとしたとき、体の位置、腕の位置などかなり精密にバランスがとれないと力が入りません。そういう訳で、二本の足で立っている人間が、ある位置である方向に力を加えようとすると、最高の位置というのは唯一つの状態しかなく、その状態でしか最大のパフォーマンスが発揮できないのです。ですから、その最高の位置を少しずらせば、力が急激に小さくなります。これが科学的な原理です。

そして、相手は最大のパフォーマンスを出す位置を経験から小脳で自動的に計算しているので、こちらが相手と繋がろうとする意識が働くと力の方向が若干変わるのですが、相手の経験がそういう経験を通っていないから、実際に相手が最大のパフォーマンスが出る位置と食い違いが生じるため、十分な力がなくなります。その結果相手はついてくるわけです。

このように合気道では、面白いことに、意識と現象が全く正反対になります。相手に敬意を示すと、逆に相手がついてくるというのはこういうことです。これが合気道の面白さなんです。